木之本 一から九
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五銚子の滝と杉の山の会
五つとせー。数字でたどる木之本も、ちょうど真ん中まで参りました。5番目は、さわやかな滝をご紹介。

●山の会をひっぱる二宮さん
 五番目は、山と滝のお話である。4合目まで快調に登ってきたアルピニストも、5合目くらいから足取りが重くなってくる。そんなとき美しい滝に出会ったりすると、ホッとする。5番目のお話は、そんな清涼感を味わっていただこうと思います。
 春、湖北では、伊吹山に雪がなくなっても白く輝く双耳峰の山が二つ望める。双耳峰というのは、馬の背のような山の形のこと。そう言えば「ある、ある」とうなずく人もいるはずだ。県下第二の高峰金糞岳と木之本町杉野にある横山岳である。
 横山岳は、奥美濃と越前との国境に近い。ふところの深い山だけに、今までは地元の人たち以外にはあまり知られていなかった。最近、山と渓谷社から出版された「滋賀県の山」で紹介されて、急に京阪神や中京からの登山客が増えたという。
 知られていなかった割には、登山道はしっかりしているし、登山口までの標識も親切だ。地元に「杉野山の会」という、横山岳を愛し守る人たちの会があるからである。その会長を長年努めてきておられるのが、杉野に住む二宮宗太郎さんだ。
横山岳に登るなら、5月中旬ころか10月〜11月下旬がいい。最適なのは、11月の紅葉の季節だ。湖北の他の山と違って、500メートルから上には人工林が無い。クヌギやナラなどの落葉樹が多いから、最盛期は全山紅葉に彩られる。3月下旬の残雪の頃もいい。固まった残雪の上をスイスイと登っていける。

●長治庵で一泊して山菜料理三昧
 季節が決まれば、次は登山ルートだ。杉野川に沿って国道303号線をたどると、杉野の集落に着く。村の入り口に,杉野山の会が作った大きな看板がある。ここで、道は二股に分かれていて、左手の旧道を進むと、ほどなくよく手入れされた藁葺屋根の民家がある。江戸時代から旅館を営む長治庵だ。日程に余裕がある場合は、ぜひ長治庵で一泊してほしい。囲炉裏のそばで、主人の松本学道さんの楽しい山の話が聞ける。夕食は、杉野の山菜料理三昧だ。
 ここらで「山菜三昧?”五”はどうした。滝が出てこんのなら、ワシもう読まん」などと、眉間をピクつかせる方がいるかもしれない。
「まあまあ、ここは山菜に地酒でも飲んで、ゆっくり泊まってほしい。明日は、楽しい山歩きが待っているのだから」と、自信をもって申し上げたい。

●経の滝の水で二日酔いも四散
 長治庵から数百メートル先に、網谷林道へ入る道があるので、ここを左へ折れる。2キロほど進むと、登山者カードを入れるログハウス風のかわいいボックスがある。ここが白谷本流コースの登山口だ。目の前に、双耳峰の横山岳がドーンと横たわっている。車で行けるのはここまで。あとは自分の足が頼りだ。
 しばらくは、沢沿いの楽ちんコースが続く。杉野川の支流になる沢を、右に左に渡りながら登ること30分。経の滝に到着だ。20メートル近い滝の前に立つと、岩に当たる水しぶきが心地よい。昨夜、長治庵で地酒を飲みすぎた人も、この滝の水で口を潤すと、二日酔いも四散してしまう。
 ここらで「四散?滝は五がつかんの?ワシもう帰る」と言って山を下りようとする方がいるかもしれない。
「あなたは、ようやく四段階まで来たではないか。五銚子の滝はすぐそこなのだよ」と、行く手を指差しながら力強く申し上げたい。
 この言葉に、思い直して歩き始めた方は、20分も登ると身の過ちを悔い改めるであろう。
 目の前に、五段になって流れ落ちる五銚子の滝が現れるからである。滝の名は、杉野の横山神社に捧げるお神酒の銚子を、滝の水で清めたことから付けられたという。

●五銚子の滝に打たれて悟りを開く
 五銚子の滝に打たれて、悟りを開いたあなたにもう迷いはない。あとは、ブナの林が続く谷道や尾根道を一直線。ザイルやはしごがある1時間半の急登だが、あなたに恐いものはない。急坂を登りきると、クマザサにおおわれた山頂に到着だ。
 湖北で山頂からの眺めがナンバーワンという山をあげるとしたら、迷わず、横山岳を推したい。眼下に地図と同じ形をした、琵琶湖と竹生島と余呉湖の大パノラマが広がるのだ。天候に恵まれれば、肉眼で琵琶湖大橋だって見える。反対側には、幾層にも重なる山並みの彼方に、白山が見える。標高は1,132メートルだが、伊吹山や霊仙などより登坂がきつい分だけ、山頂での感激もひとしおだ。
 横山岳は、おらが村の誇りや、大切にしようやんケ、と「杉野青年山の会」が発足したのは、29年前のこと。二宮さんが22歳のときだ。当時は青年会の活動が活発だったから、青年会のメンバーが中心だった。10年経つと、当然のことながらメンバーは30代になった。そこで19年前に会の名前も「杉野山の会」に発展したわけだ。
 減ざ、メンバーは15人。毎年欠かさず続けているのは、登山路の整備だ。6月と8月の2回、コースの柴刈りや草刈り、ザイルや標識の点検などを行っている。連休明けに行う山開きも、毎年の恒例行事だ。

●滝が渇れないのは山の会のおかげ
 山頂には名古屋気象台の気象観測施設がある。平成4年からヘリコプターによる降雪の観測などが行われている。
「20年近く前に山小屋を建てたんやけど、昭和56年の豪雪でつぶれてしまった。このヘリを利用して、もう一度山小屋を建てたいんや」というのが、二宮さんの一つ目の夢だ。
 二つ目の夢は、杉野に横山岳の資料館を造ること。場所はすでに決めてある。杉野の入り口に立つ、山の会の看板のすぐ左手だ。実は、そこが二宮さんの家なのだ。
「前の畑をつぶしてね、1階は茶店風の資料館にして、2階は宿泊所にしたい。山から水を引いて、資料館の前に水車も回したいね」
 二宮さんは、家の前に古道具や古い農機具をいっぱい並べて、いまから資料の展示を始めている。
 三つ目の夢は、ブナの林が広がる山頂付近を、杉野山の会が地主から預かって管理すること。
「放っておいたら、横山岳もスギ、ヒノキばかりになってしまったやろ。余呉側は、県の造林公社が植えた人工林ばかりや」
 広葉樹の林が水を貯える力は、針葉樹の何十倍もある。雨は葉に溜り、落ち葉が積み重なってできた、じゅうたんのような土にしみ渡る。その水がゆっくり、ゆっくりと谷を流れ、より集まって、滝となって流れ落ちる。
 経の滝や五銚子の滝の水が渇れないのは、広葉樹のおかげなのだ。そして、広葉樹を守ってきた杉野山の会のおかげなのだ。


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